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61 下町猫散歩

気持ち良く晴れた休日、久しぶりにぶらりぶらりと下町を散歩しました。これといった行き先も決めず気のむくまま目線の惹かれるまま歩くのが大好きで、この日も結局午後の半日をあっちにふらりこっちにふらりと陽の沈む頃まで歩いて過ごしました。気の向くままといってもこの日の散歩は「下町猫散歩」と勝手にお題を決めて出発、墓地に路地裏、そこかしこの猫達とどのくらい会えるかなといういわば企画モノ。昼休みには憧れの人と会えるかもと密かな期待を抱いてわざわざゆっくり廊下を歩いてみた中学生の頃の気分をふと蘇らせながら出かけました。

その日のメインの散策コースは日暮里駅を出てすぐ左手、谷中の墓地です。春先にはさぞ桜が見事なことかと思われましたが、既に花の名残も無く、葉が茂った大木は風をさわさわと運びながら陽射しの強さをやわらげており、墓地の通路は爽やかな散歩道となっていました。
谷中の墓地といえば徳川慶喜を始め著名な人のお墓も多い広大な墓地ですから、そのメインの通路には自分達と同じように休日の散歩を楽しむ人が多く、さて猫さんはいるのかなと見渡しても静かさを好む猫達は人気の多い道には姿を見せてはいません。

ですが、広い通路を離れひょいと墓石が並ぶ奥に入っていくとちゃんといるのです。やはり墓地には猫。陽のあたる墓石の影からじっとこちらを見ている白い猫を一匹みつけ近寄っていくと、さて名も知らないどなたのお墓に集まって来るものなのか、そのあたりは猫の集会所らしく、白、茶白に親子兄弟?という猫達が数匹思い思いに石に寝そべって目を細めながら陽を浴びていました。 墓地に住み着く猫はお供物などそれなりに食べ物を貰えるのでしょうか、顔つきこそ微かに警戒心を漂わせている野良の顔をしていますが、思いのほか体格は良さそうで、お参りをするわけでもないのに墓地の奥深く入ってくるもの好きな人を見ても逃げることも無さそうです。いやいや人生達観したようにこちらを見ているその穏やかさは常日頃弔いの読経の声を聴いているからかもしれず、ならばうちの猫にもピアノではなく同じ洋モノならばいっそ毎朝グレゴリオ聖歌でも聴かせたら明け方の運動会の悪戯ぶりも、すぐに逃げ腰になる弱虫さんぶりも変わっていくというものでしょうか・・。

中に一匹、右目を失ってしまった薄茶色のトラ猫がいました。もう既に片目の生活になってから長いのでしょうか、痩せ気味ですが見えない目を気にする風も無く、隣のお墓との境界上の石にひょっこり立ってじっとこちらを見ていました。事故なのか、それとも猫風邪をこじらせてしまったためなのか、早く誰かが世話をしてあげたら視力を失わずに済んだのかもとちくりとこちらの心を刺してきます。ですが、多分既にもうなにもかも受け入れて静かな墓地暮らしを選んでいるその姿に痛々しさを見出すことは人間の勝手な傲慢さかとも感じながら、谷中で仲間の猫達と幸せに人生を全うしてねとそのままお別れしました。

墓地を出て根津方面に向かい、言問い通りの蕎麦屋に立ち寄ったり古本屋を覗いたりしてるうちに窓辺で昼寝中の猫を発見。その家の脇には外猫として飼われているのでしょうか、軒先にたむろする人懐こそうな猫が何匹も。塀から顔をひょっこり出して寄って来る猫達はお腹を見せじゃれついてきます。そうしてそこここの猫と会話を楽しみながら歩いて歩いていつのまにか不忍池まで歩き続けていました。

谷中の墓地、道端、連休の人込みでいっぱいの上野公園、この日出会った猫はいったい何匹だったのでしょう。覚えていられないくらい沢山の猫と会ったのですが、この猫達のうち果たして 一匹でも再び会うことはあるのでしょうか・・。

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2004年 5月9日


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