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52 命名マローネ

ピアノの生徒達や足を運んでくださる楽器店の方などに
「猫、どういうふうにして飼うことになったんですか?どこかで買われたんですか?」
とよく訊かれます。中には
「う〜ん、高そうな猫・・」
とおっしゃる方も。
「いえ、か、買うだなんてとんでもないです。里親さんを募集していて、それで、ご縁があったみたいで・・」

「とんでもない」という言葉は「猫を買う」ことへの違和感をいつもなんとなく感じ続けている私の正直な気持ちから出てくるものです。確かにペットショップへ行くと猫も犬もうさぎも小鳥も小さなケージの中で飼育され、ペットとして売られています。何万円というお値段がつけられ、きゃあカワイイ〜コレ買いたい!目と目があっちゃったのぉ〜で、お金を出せば自分のものになり、飼えることが既に常識なのですが。

もう何年も前から当たり前のようにカブトムシや蝉がデパートで売られていますが、これを最初に見聞きした時はギョッとしたものです。なんでそのへんの木の上で鳴いてる虫がデパートで売られなきゃならないの?!私のその一昔前の庶民感覚は今も健全に続いており、まして自分と極めて近い哺乳類の猫や犬がお店で売られているのは、そのうちヒトもあんな風にオリに入れられ・・という連想が頭をかすめ、もうひとつよしとしないものです。動物愛護云々と唱えるつもりも特にないものですが・・。

というわけで、猫が好き、猫を飼いたい、猫と一緒に暮らしてみたい・・と真剣に考えて捜していた矢先、とあるおうちに生まれた猫の兄弟を貰って欲しいとの掲示を見て、ぐっと写真に引きつけられてしまい、会いに行ってきました。真剣にというのは、私にアレルギーの問題があったため、人間以外の動物と暮らすのはかなり冒険でしたから。飼いはじめてからやはり無理というのでは育てる猫への責任にも関わることですし、よく考えてと長いこと迷っていました。

さて、その私が初めてご対面した里親待ちの猫達は生後2ヶ月にもならない小さな子猫で、文字通り手のひらに乗るくらいの大きさでした。ふわふわとした綿毛に包まれたそれはそれは愛くるしいもので、しかも少し力を入れたらつぶれてしまいそうなくらいふにゃふにゃと柔らかく、私の手に温かい体温を感じさせてくれます。
子猫の兄弟同士がぴょんぴょんとじゃれあって飛び回っていたかと思うと、たとえかけっこの途中でも、眠いとなるとあっというまに仲良し兄弟3匹が折り重なるようにその場でくたっと眠ってしまう、そんな可愛いさまを目の当たりにすると、自分のアレルギーのことなどふっとんでしまいました。

むしろ、その猫たちを目の前にして心を痛めたのは兄弟を引き離して、1匹を選ぶことに対してのうしろめたさです。血のつながった兄弟の中からアナタが可愛いからこっち、などと言って選ぶなどそんな奢ったことが許されるのか?私に引き取られるか他の人に引き取られるかで1匹の猫の運命が決まるのだぞ、こんなただの卑小な人間にそんな神のごとき大それた行為が許されるのか、いやそんな大袈裟な・・と、ふにゃふにゃの猫たちを前に心が微妙に揺れたものでした。

今思い返すとその心の揺れのせいなのでしょうか、じゃあこの子をと私が引き取った猫は兄弟中で一番甘えん坊で体の少し弱そうな男の子。
生まれた時、目やにで目がふさがっていて、ようやくちゃんと開いたところでした。くわえた猫じゃらしで人間と綱引きをしてしまうような負けん気の強い兄弟に比べ、膝に乗って抱っこされるのが大好き、人なつこく少し怖がり屋さんでおっとりタイプの子です。初対面の私にもちゃんと抱っこされ、ちょこんと手に乗り、肩に乗りという子でした。

やっぱりやんちゃでも元気な子がいいかな、でも「目やにちゃん」はひょっとしたら貰い手がないかも、そうだったら可愛そう・・というそれこそ考えようによっては少々傲慢とも言える想いですが、ボク体弱いんだけどという子がどうにも気にかかり、ああやっぱりこの子がいい、といつのまにか心は「目やにちゃん」にすっかり傾いていました。普通こんな時には出来るだけ生命力の強い丈夫な猫を選ぶのでしょうけれど、どうもその時の自分にはそうすることが許せなかったようです。

かくして「目やにの甘えんぼちゃん」は嬉しくてたまらないながらも少々おっかなびっくりの新米猫ママに抱えられてバッグに入り、生まれて初めての電車に揺られてじっとすみっこで固まったまま30分。彼にとってそれはそれは長い旅を終えて我が家に連れられて来たのでした。

「名前はマローネにしようかと考えていたのだけど・・・。イタリア語で茶色という意味。」
「いい名前を貰ったね。」
一緒に迎えてくれたパートナー氏のひとことでその猫はその日からマローネ君と呼ばれることに決定。兎に角ミルクティーみたいな淡い茶色が印象的な子猫でした。

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2004年 2月8日


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