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49 ハノン活用法(3)

前回に引き続き。
特に社会人でピアノを弾いていかれる方のためのお話として、私自身の経験から得たことをこの場で書ける範囲で書きます。ハノンを使っての練習について考えるきっかけにしていただければ幸いです。

ハノンを弾くといえば、一般的には、兎に角指をよく動かし、速いテンポでガンガン弾くというようなイメージがあるでしょうか。
ハノンの応用練習の仕方は色々あるのですが、おそらく有効な練習方法ながら、あまり弾かれていない弾き方が、「ゆっくり深いタッチで」弾くことかもしれません。

書かれたものを読むだけで、実際の自分の練習に結びつけるのはかなり無理があると思いますが、参考までに少々その方法をご紹介します。

この練習の主な目的は、音に集中して音をきちんと聴くことを習慣付けること、指の一本ずつで鍵盤の底までしっかりと押さえる深いタッチを身に付けることです。

実際に弾くのは例えば、ハノンの第1番の上昇型、下降型からそれぞれ一小節ぶんだけ、と限定します。
自分の弾きやすいポジション、普通、いわゆる真ん中のドに右手を置いて、左手はその一オクターブ下を使います。ゆっくり、一音ずつ、とりあえず「強く」という感覚で指の腹を使って鍵盤を底の底まで圧すというように打鍵します。

ゆっくりといっても色々ですが、一音をメトロノームの42ぐらいにあわせる程度、相当にゆっくりです。実際のレッスンでは、その時の状態によりますが、場合によってはテンポを無視して音を出すことのみに集中する場合もあります。

ゆっくりとしたテンポの中で音を出すことにどういう意味があるのかということですが、まず、落ち着いて、意識して、自分の音を聴く、その聴くという行為の実感を体得するためです。実際やってみると一つの音を出す時にきちんと集中して聴きながら音を出せる人は意外なほど少ないものです。
本当にびっくりするくらい、相当に弾ける人でも、聴いていないことに気付かされます。聴く習慣、いわゆる耳が出来ていないという場合は相当あるものです。

速いテンポでだだだっと勢いだけで弾いてしまうと、音楽的に必要な注意にまで意識が向けられず、徒競争のように指だけを鍵盤に走らせてしまいがちです。
長く弾き続けると、集中力も失せます。そのため、まず、一小節に限定して練習します。

最初のうちはたったひとつの音を出した時に、「聴けていないですよ〜。もっと聴いて!」という指摘を受けても、なにがなんだかわからないという場合もあります。能動的に聴くことを積み重ねて来なかった人にとっては、聴けていない状態を自分で感じられるまでには時間が必要です。

この場合、聴く「耳」というのは主に、どういった質の音を出しているのか、打鍵した後の音の響きの質に耳を傾けるといった類の耳です。練習を重ねていくと、固い響きなのか、深くまろやかな音の響きなのかといったこと、その時自分がどういう指の使い方、肩や背中、腕がどんな状態をしているのか、判断し、その人なりの深く安定したタッチや響きの伸びのある音が少しずつ作られてきます。

一音ずつ聴くことを意識しながら、やはりゆったりしたテンポで注意深く一小節を弾くのですが、これも人によっては意外に大変な事で、大発見の新鮮味を味わうこととなる場合もあります。ひとつの音を聴きながら次の音への指の準備をし、耳も体も音と音の響きのつながりを感じながら弾く・・・。

ピアノという楽器から発するたったひとつの音の放つ美しい響きに耳を傾けられるようになると、このような練習を素通りしてしまうのが惜しいことに気がつくかもしれません。このような練習から「一音ずつよく歌うタッチ」や音を丁寧に大切に弾く姿勢が次第に身についていくでしょう。

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