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24 トゥシューズの秘伝

お稽古場でピアノを弾く、いえ、正確に言うとピアノの前に座って手を休めている時間の楽しみのひとつに自分の知らない世界を覗き込める面白さがあります。もちろん、密かにこっそり・・。

自分自身がその場にしっかり関わってはいるのですが、やはりどんなに長い期間バレエの場で弾いていてもピアニストの役割はそれはそれ。音楽を提供することが何と言っても一番の大切な仕事であり、踊りの領域に直接深く入り込めるものではありません。
その専門的な域はやはり敬意と畏怖・・というと少々大袈裟ですが、すごいなあ、と感心を抱いて接する世界です。バレエ教育の場では音楽を含めその場の全体を把握しながら解剖学なども含むバレエの専門的な知識や経験を駆使して指導にあたるバレエ教師、熱心に汗を流して稽古を積む生徒達、それぞれの立場があるものです。

私の場合は特に自身が踊る経験をしていないこともあるせいか、敬意や感服は時に好奇心にとって変わります。元来ちょっとハスに構える癖のある性格のせいなのか、どれどれふーむと一歩引いた目で稽古場の様子をみつめることは、簡単には譲れない醍醐味なワケです。

そんな私の目にも未だにおいそれと触れてはいけないように素直に感じられるのがトゥシューズです。フランス風に言うならポアント(pointe)すなわちトゥシューズの存在は私にとっては触れてはいけないちょっとしたバレエの聖域、これまた大袈裟ながらも神々しいものですらあるものです。
膝下くらいまでの丈の長いふわふわの白いロマンティックチュチュも、口の悪い輩に言わせるならウン十才以上の趣味のバレリーナさんはそれを身に付けるのは犯罪とやらの例の白鳥のチュチュも、(アラそこまで言われるなら着てやろうじゃないの・・とは思いませんが・・)、お稽古用のお洒落な色とりどりのレオタードも、それぞれ見事に素敵なバレエアイテムですが、やはりダントツ一位に燦然と輝くのはトゥシューズです。

なにせ子供の頃から妙に惹きつけられていたのがあの「甲のばってん」と足首にきゅっと巻かれたサテン(つやつやと輝くピンク!)のリボンです。バレリーナへの誉め言葉の一つに「なんて高く張った綺麗な甲でしょう!」という言い方があるように甲の美しさを一段と引き立てて見せてくれるのがトゥシューズです。と同時に甲でクロスさせたあのリボンひとつでくるくるめまぐるしく動き回る足元を支えられるものなの?踊ってる途中でリボンがほどけて脱げちゃったりしないの?足にぴったり添ってるように見えるけど、シューズが浮いて踊りにくかったりしないの?といくつものクエスチョンマークも浮かんできます。

ですから、その聖域たるトゥシューズを身に付ける奥義(?)など、稽古場ならではの裏技を目の当たりにするといやもう目はらんらん心は密かに踊るものなのです。
企業秘密に関わってくる・・かどうかはともかく、体験者でもない私がこの場で説明してしまうわけにはいかないものですが、例えばこんなこと・・。

甲の上で交差させたあのピンクのリボンの最終地点は足首です。どうやってとめてるのかしら・・しっかり結ばなきゃほどけちゃうかもしれないし、でもきつくて痛いのは困るでしょうしと思っていたら、これがちゃんとあるのですね、秘伝のスープの仕込み方が。足首に何周か巻きつけてきゅっと結んだその結び目をどうやって綺麗に隠すか、さてその結び目をどこにどうやって納めるか、その入れ方の微妙な違いが・・・・と。

驚きの奥義のさらなるひとつは、カーマインローション。お肌のほてりを静める化粧水がまさに秘伝のスープの如くシューズの調整に登場するなんて、晴天の霹靂もいいところです。加えてもうひとつ言うなら、いやはや新品のトゥシューズをコンクリートにがんがんぶつけるなんぞ・・。そうです、儚げに美しく舞台に舞うバレリーナが夜もふけた家の玄関先などで手に持ったトゥシューズを振り上げて・・。呪われたポアント?いえいえ・・。

日々のお稽古場で或いは舞台で、実に何足ものバレエシューズ、トゥシューズが履きつぶされると聞きます。自分の足にしっかり合ったシューズを見つけるのが実は大変だったりするとも。買ったばかりの新品のトゥシューズを履き心地良く上手に自分に合わせるための工夫や知恵もひとそれぞれ、また先輩から後輩へと受け継がれるていくものなのでしょう。

・・と、ピアノの弾き心地の違いを考えているうちにいつのまにかトゥシューズへと想いをめぐらしていたものです。

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