18 基本のき (3)ハーモニー
ハーモニー。言い換えれば和声。もっと単純に言い換えるなら和音と言ってしまってもさしつかえないかもしれません。一般的な単語としては調和というような意味での使い方もされるように何かと何かが合わさって同時に生みだされるもの。ドの音の上にミ、ソ、と重ねてドミソの和音、ドミソのハーモニーという具合です。メロディーを横の関係と言うならハーモニーは縦の関係です。
和声的に書かれた音楽というような言い方がありますが比較的よく知られたピアノ音楽ではドビュッシーあたりが例にあげられるでしょうか。「沈める寺」などは譜面を一目見ると和音と和音の連なりで成り立ってる曲ということがおわかりいただけるでしょう。五線譜上で縦方向に音符のおだんごがしっかり重なって厚みがあるのが単純に見てとれると思います。
ただし、和声の変化に彩られ、魅力的に響きわたる美しいピアノ曲であってもバレエの稽古場でのレッスン曲としてはこのような音楽は使えるものではないでしょう。安定したリズムを提供したり、とらえやすいメロディーにかけてる曲は動く側にとって使いづらいものでしょう。又、仮にリズムの点でステップにうまく合っているとしてもこの譜例のような両手にわたって縦に連なる音数が多い曲は動きを見つつ弾いていく稽古場で弾きこなすのはやはりそう簡単な話ではないもの、あえて弾こうとは思わないもの。
では、バレエのレッスン曲の中でのハーモニーの生かされ方をいくつかに分けて見てみましょう。
まずひとつは譜例1のような単純な一定のリズムの繰り返しを使って弾く場合。タンバリンをたたき続けるのと同じようなリズムの反復は小さな軽いジャンプを繰り返す時など必要でしょう。安定したリズムの支えが欲しいだけならタンバリンをたたくだけでも良いかもしれません。でもたくさんの音をいっぺんに出せるピアノという楽器を使い和声的な変化をつけることでちょっと音楽的にお化粧することができるものです。単音でラララ、ソソソ・・・と弾くのと下のように和音になってるのとを思い浮かべてみると同じリズムの反復という単純な弾き方でもその違いはお分かりいただけるでしょう。
【譜例1】 RAD Major Examination Syllabus より
又、【譜例2】のようにやはり単純な和声的な変化を主体にして出来てるような曲も縦の厚みをほぐして斜め(?)につないであるともう少しお洒落になるでしょうか。バーとセンターの合間のストレッチに気持ちよい雰囲気の音使いでしょう。
【譜例2】Eduard Putz:Sentimental Lady(Jazz waltz) より Schott版
そしてもうひとつ。和声的な変化による曲というよりも音の厚みを増し、旋律にちょっとアクセントを加えるために和音を使う場合。
【譜例3】 Annie Lerolle:Valse gracieuse より Gerard billaudot版
譜例3はロン・ドゥ・ジャンブのために書かれた曲ですが、パッセージの頭に和音、しかもアルペジオを入れることで足を動かす勢いのようなものが得られるでしょう。
最後にもうひとつ。旋律も伴奏部分も全体に程よい厚みを持ち、単調にならず、平板にならず、陰影に富んだ美しい響きを醸し出すという和声に期待する基本的な役割を果たす曲。音楽的に充実したこのような曲は稽古場で大いに使いたいものです。アダージオでは和声的な変化が音色に潤いや深い濃淡を与え、繊細な踊りを導く曲が使われやすいでしょうか。具体的には主に完成されたピアノ曲からの抜粋が例として沢山あげられるでしょう。
それにしてもこうして稽古場の音楽での和声の役割・・の入り口・・・を考えるのはちょっと骨の折れる作業です。やはり動きに添って使いやすい音楽はどうしてもリズムやテンポといったことが主体になるからでしょうか。でも、視点をちょっと変えてみるとレッスン・ピアニストが和声的に美しく変化に富んだ音楽を弾くことで単調になりがちなレッスンの音楽の質をぐっと高め、音楽性豊かなダンサーを育てていくことにつながるのかもしれません。
そう考えるとピアノ弾きとしてはタンバリンをたたいてるのと変わらないぞという演奏は出来るだけ避けたいものと思うもの・・・。
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