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4 アンサンブルの妙

およそどんな種類の音楽でも他の楽器の伴奏、アンサンブルを体験する醍醐味のひとつに、対話の面白さがあるでしょう。
言葉を介在させず、瞬時に他者と会話し、ぶつかり合い、受け入れ合い、悦び合い。音と音で微妙な心理状態や呼吸を感じつつ、互いの音楽を投げかけ、1+1をさらに何倍にもすべくして、聴き手である第3者に放ちます。
連弾や2台ピアノしかり、歌やトランペットなどのソリストとピアノ伴奏、チェロやヴァイオリンとピアノのトリオ、弦楽合奏、オーケストラ・・・。
とどまることのない時の中で、瞬時に行われるそういった作業を通して、演奏者同志言うに言われぬ共感が生まれます。その場で演奏してる者にしか解らないニヤリと笑いたくなる瞬間。
「うーん・・そう来るのか!アイツやってくれるねぇ。」
「今日はもうひとつ調子があがらなそうね・・もう少しここは速めに弾いた方が楽に歌えるかな?」
という具合。勿論、演奏のまさにその最中の感覚です。
素晴らしい力量を持った音楽家達による音の競演ではそういった見えない対話も含め、時に聴き手をも巻き込んで、空間全体が深い共感に満ちたひとつの作品となることさえあるでしょう。

私にとって、バレエピアニストの喜びも究極的にはそこにあります。拙い経験ながら、バレエのピアノを弾く喜びは音楽のアンサンブルをすることと本質的に全く同じものです。

踊り手が音に対して神経を働かせ、耳を傾けているかどうかは弾いている私にも十分感じられるのです。上半身が歌うかの如く伸びやかに、ジャンプは軽やかに高く美しく、その動きの呼吸を感じながら音と動きが一体となる瞬間はまさにバレエピアニスト冥利につきます。稽古場という狭い空間でも、小さなダンスの作品を弾く時など最後の音とポーズをとるその片手の指先1本がぴったり一致した時などはもう言いようのない充実感です。

でも・・・そう、そうなのです。その瞬間の快感へなんとかたどりつくまでがなかなか難儀。問題なのです。右往左往の暗中模索・・・。

歌の伴奏なら、少しは経験がありました。連弾や、ピアノ2台によるアンサンブルの演奏も。
でも、これらに必要なのは音を聴きあっていく能力、努力です。聴いてあわせる、聴いてリードして演奏する。基本的にはそれで音楽を作っていくものです。
まあ、演奏者同士が目と目で合図をしたり、ソリストの歌い手の様子を目の端で見ながらピアノを弾くというような視覚的な要素も時には必要ですが。
とは言え、ほとんどの場合、相手はその場から動かずに立ってます。頻繁に何メートルも移動したりなどしません。オペラのアリアを歌いながらスキップはしません。走ったり、ましてや空中に高く跳び上がるなど、滅相もない!

バーにつかまって立ったりしゃがんだり、蹴ったり、稽古場のはじからはじまで跳んだり走ったり回ったりのダンサーを目で見て、弾く!バレエピアニスト初心者の驚愕と嘆きの始まりです。ピアノをさらう前に、己の動体視力を鍛えるべきか?!

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